●50代 男性
【主訴】右五十肩 肩こり 高血圧
もともと肩こりがひどかく、3,4年前から右腕を長く挙げていられない状態だった。2年前から右手握力が低下、お箸がうまく使えないことがあった。運動をして右腕を使い、その一週間後から右肩関節に痛みが起きた。仕事で右腕をよく使うため辛い状況。10年ほど前から高血圧で薬を服用中
【病因病理】
30代疲れると口内炎が出やすく口内炎が出ると扁桃腺が腫れ発熱するなど、疲労時に上焦に熱症状が起きやすかったことが分かる。この頃から腎虚傾向があり、また肝鬱が強かったのではないかと考える。
40歳では頻尿になり前立腺炎と診断される。そして40から45歳くらいからは肩こりが悪化、夜中に目が覚める程の症状となる。この頃から既に肝鬱腎虚の悪循環が長く続き腎気を損傷し全身の気虚傾向があったために、日常的に強い気血の停滞が起きていたのではないかと考える。この強い肩こりは現在まで継続している。
転職し月4回の夜勤がある仕事になった。夜勤ではほぼ徹夜で気を張って仕事、夜勤明けにも再び気を張りそのまま外出したりゴルフをしたりする生活となる。そしてその後高血圧の薬を服用するようになる。腎虚や全身の気虚が進み、裏の弱りが悪化し、肝陽を抑えられないような状態になっていたと考える。
数年前医者から言われて食事を改善(腹八分目 減塩)。改善とともに胸焼けは治まり、体重が5、6キロ減り内湿も捌かれ、脾腎への負担は減ったのではないかと思われる。 しかし、同じ頃から右腕を長く挙げられなくなり、右握力が急に落ちたり、夜中に目が覚める程の肩こりも改善してこない。食の節制によって脾腎の負担は減ったものの、回復は十分なものではなく、むしろ仕事の疲れや加齢が加わり、腎気を落とす事の方が大きく気虚が悪化し、全身に十分気血が行き渡らず気の濃淡の差がますます大きくなり、症状として表面化してきたのではないかと思われる。仕事やスポーツでよく使う右腕の経絡経筋が弱り負担を生じるようになっていたのではないか。
現在の切診情報では、左右の脾募や舌滑から内湿の存在が伺え、脾兪胃兪や足三里などの状態から脾虚傾向にあることが分かる。腎気が落ちる事で脾へのバックアップも低下し脾気への負担も大きくなっている可能性がある。内湿はおそらく食生活改善前から溜まっていたと思われ、この内湿の存在により気血の流れが阻害され、より気滞を起こしやすくなっている可能性も考えられる。
また左右風門の緩み、右太淵、右列缺の緩みがある。これらの反応は気虚によるものなのか、あるいはいつからか判然としないが風邪の内陥があるという可能性も考えられる。内陥があるために強い肩こりがなかなか治らず、全身の生命力を阻害し気虚を悪化させている可能性も考えられる。
残尿感や頻尿傾向(かなり前から)、翌日の疲れ、目の疲れなどのお話から、そして切診での背部兪穴やその他経穴反応から、腎気の損傷はかなり深いものなのではないかと考えられる。意志の強さが感じられ、もともと素体以上に強く肝気を張る(がんばる)タイプの方であり、肝鬱腎気になりやすい。
また夜11時就寝、朝4、5時起床と睡眠時間は短め、その上に夜間排尿が1から3回(かなり前から)、肩こりで目が覚める事がよくある(40歳頃から)これらのことを考えると、だいぶ前から質の良い睡眠をしっかりとる事ができていなかったと思われ、この事がますます腎虚を悪化させる一因となっていると考える。
【弁証】腎虚を中心とした全身の気虚 右陽明大腸経の経絡経筋病
【論治】益気補腎 右陽明大腸経の経絡経筋を補う
【治療指針】
まず損傷している経絡経筋を補い主訴の軽減を図ることを目標とする。
同時に腎気と肺気を補い全身の気虚を救う。
風邪の内陥の可能性があるため、注意して体表観察を行い、風邪の反応が表面化した場合には風邪の治療を優先する。
疲労を軽減させる事を目標とした生活改善を勧める。
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【生活提言】
現在の〇〇さんのお体は、生命力の根幹である土台の力(東洋医学では『腎』と呼びます。)が弱っている状況です。土台の力が弱っているために、夜間に目が覚める程肩こりが酷かったり、疲れるとすぐに口内炎が出たり、目の疲れ、頻尿傾向や夜間排尿、血圧が高め、といった症状が出ています。
土台の力の弱りから、それに伴って全身の生命力も不足しています。(東洋医学では『全身の気虚』といいます。)生命のエネルギー全体が不足していると、身体のよく使う部分にどうしても弱りが出てしまうことがあります。「右腕を長く挙げていられない」「右の握力が落ちる」等の症状はそうした身体状況の現れです。そうした状況を変える事が出来ないまま、さらにエネルギーが消耗、そしてよく使う右肩に弱りが出て損傷してしまったというのが現状です。このように右肩の痛みは、局所だけの問題で起きたわけではなく、土台の力の弱さや全身の生命力不足によって起きた症状だと言えます。
右肩の痛みを改善する為には、傷めた部分の治療ももちろん必要ですが、土台の力を改善させていく事がより重要になります。局所だけの治療を行って一時は改善しても、全身の状態が改善しなければまた同じ症状を繰り返したり、他の部位に症状が出てしまう事も考えられます。これを機会に土台の力を回復させる事を考えていくとよいでしょう。
そのためには、まずはしっかりと休養をとり疲労を回復させていくことが大切です。回復の手段の一つとして、毎晩の睡眠が重要となります。翌朝になっても疲れが残っている状況では睡眠が不足しています。疲労の蓄積が続けば土台の力はますます消耗してしまいます。10時には就寝するようにしてみてはいかがでしょうか。(可能であればしばらくの間は9時就寝でもいいでしょう。)
また睡眠の質も重要です。夜中に肩こりで目が覚めたり、夜間排尿があるために眠りが浅くなり、それがますます土台の力を損なう一因にもなってしまいます。そして土台の力が弱ると、さらに睡眠の質も落ち、肩こりや夜間排尿も悪化し中途覚醒が起きやすくなってしまいます。こうした悪循環を早く断つためにも、土台の底上げを行う治療や生活改善がお勧めです。漢方薬を試すのも良いかもしれません。
〇〇さんも「疲れが溜まっている」とお話されていましたが、どうしたらその疲れを軽減させることができるのかを考えて、毎日の生活設計をしていくとよいでしょう